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しろいはなび

twitterでは手狭に感じてきたのでブログを始めてみました。

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 村上春樹

おもに院生時代にお世話になっている教授を囲む会があったときに、村上春樹のどこがいいのか聞いてみたところ、その教授は「その時々の時代を表現するのが上手い、しかし一歩先二歩先を表現できないところが彼の弱さだ」というようなことを仰っていた。また、同席していた学友は「ドロップアウトした人間を上手く描いていてそこに共感を覚えた」という趣旨のことを言っていた。

わたしがこの本を読んで村上春樹の良さはなんだろう、と考えてみたところ、彼の良さは誰もが経験するであろう普遍的な事柄を、彼独特の清潔な文体と世界観で奇麗にラッピングして提示しているところが彼の良さだと思った。

今回の作品で言えば、過ぎ去ってしまった青春時代、大人になり仕事を持ち家庭を作り変わってしまったかつての友人たち、男女混成グループでの繊細で危うい力関係、過去にたいする悔恨、などなど、そういう最大公約数的にどこかでなにかしら経験するであろうことが出てくる。

わたし自身の話をしよう。わたしは高校生のときの初恋の相手と上手くコミュニケーションを取ることができなかったことをいまでも悔やんでいる。もちろん、あれから時間も経ちすぎているし、何度かの上書き保存がなされているので、いまではほとんど思い出すことはない。(ちょうどこの物語でキーマンとなる人物のように、内気で儚げなひとであった)わたしは当時は異性と話すことも緊張してままならず、ましてや強い思慕の感情を抱いている相手であればほとんどまともな会話すらできなかった。もし、上手く会話をすることができて、多少なりとも関わることができていたらわたしの人生はまた違う分岐を辿っていたのだろう、と思う。

 

小説の全体的な感想は、さすがベテランの書く小説はすごいなあ、ということだ。敢えて語らないが物語を補強するであろう設定が数多く散りばめられていて、それらの意味の持たせ方も自然で深みを与えていると思った。多崎つくる~は、ほかの村上春樹作品よりは現実に基づいて(超現実的な設定は出てこない)描かれているので、とても読みやすい。

 

しかしながら、どうして彼の小説がこれほどまでに絶大な人気を誇り、発売前から書店に行列ができて、NHKのニュースで取り上げられるのか、まったく理解ができなかった。面白いことには面白い、文体も世界観も洗練されている、考える余地が残されている小説だ、しかしそれでも、あれだけの熱狂するほどの小説であろうか?

 

それと多崎つくる~を推理小説として捉え考察を書いているブログを見つけた。これが大変に面白い。

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は推理小説である。(感想・考察・謎解き) (ネタバレあり)

 

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年